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「風俗情報無料案内所」のド派手な看板がキラキラと点滅している。 あまりにも目立ちすぎるため、そのビルの4階の窓に貼られた「富良戸運送」の黒いカッティングシートはまるで目立たず、窓の光でぼんやりと浮かび上がっている程度。 その窓を見上げた富良戸運送社長は、美しい顔の眉間にしわを寄せ、「ふー」と鼻息をひとつ吐いた。 そして、風俗案内所の脇にある入り口を避けるように裏の非常階段へと向かう。 案内所から変な地図を持たされ出てくるエロサラリーマンの目にツェペシュの姿が映し出されでもしたら、「お嬢さん。どこのお店?おじさんたちでも払える料金だったらソッチに行くんだけどなぁ」と、鼻の下と上唇の距離を異常に伸ばした男達の質問攻めに遭う事は間違いない。 そのため、いつもこの時間は非常階段を利用する。 コンクリートの壁に鉄のドアがはめ込まれ、そのドアの上部にある『すりガラス』には「富良戸運送」と書かれている。 その前までたどり着いたツェペシュは、今度は「はぁぁぁ」と、大きなため息を吐いた。 ツェペシュの目線の先には、直径60cmの漆塗りの器が2枚、壁に寄り添うように立て掛けられている。 「絶対、 今度の給料から引いておく…。」 ぶつぶつとつぶやきながら、ツェペシュはドアを開けた。 始めに目に入ったのは、来客用ソファーに腰をおろしている後ろ向きの女性。 そして、対面前向きに座る満腹感が顔中ににじみ出ている大食い秘書。 約120貫の寿司を胃袋に納めた大食い秘書は、ドアを開けた社長にすぐに気付き「お帰りなさい。」と立ち上がり、後ろ向きの女性は、振り返り、軽く会釈をした。 そして人間の皮をかぶった『寿司』は、抜群のプロポーションのまま、カツカツとヒールを響かせツェペシュに近づき、 「あちらの方が、 依頼人の川越様です。」 と紹介し、その手をすぐに自分の口と鼻を覆うために引き寄せ、 「ヤバイから歯磨いてきて。」 と、小声で指示を出した。 「お待たせして、申し訳ございませんでした。」 奥の洗面所からクリーンミントの口臭をぶちまけ、身長2mの首の上に女性の顔が乗った富良戸運送社長が現れた。 先刻のあいさつで一瞬だけ見た、ありえないほどの美形に「目の錯覚」だと心に言い聞かせていた依頼人の女性は、あらためて「錯覚」は「現実」だったと確認し、「い…いえ…」とだけ答え、頬を赤らめうつむいた。 「緊張することはありません。リラックスしてください。」 心を読んだのか?ただ、これからの仕事の内容についてなのか?どちらとも取れる言葉をツェペシュは女性になげかけ、微笑みながら対面のソファーに腰をおろす。 「社長が、お帰りになる前にお聞きした情報です。」 秘書の秋沢は、1枚の紙をツェペシュに渡した。 「川越 …あかね、さん。 …27歳で 川崎市の …市原印刷に 勤めている。…と。」 依頼人の川越あかねは、「…はい。」と小さく答える。 「えーと。 あかねさんは、私どもの会社がどういった事をやっているか、ご存知ですよね?…それで、ここへ来た?」 ツェペシュの質問に、何秒間かの間が空き、あかねは目の前にいるツェペシュをギッと見つめると、 「お願いします! 私を消してください。」 と、力強く告げた。 ![]() |